夢を現実に

 ビザンチン帝国の人々にとって、地中海世界を支配することは、夢であった。

古代ローマ帝国は、トラヤヌス帝の治世、北はイギリス、南はエジプトまで地中海世界全域をその支配下に置き、地中海を交易路として様々な文化・民族が活発な交流を行った。

 しかし、今や西の帝国は蛮族によって滅ぼされ、帝国の重要な穀物庫エジプト、シリアはアケメネス朝ペルシアの正当な後継者を自認するササン朝ペルシアの断続的な侵入に脅かされていた。527年、後に大帝と呼ばれ、ビザンチン帝国の全盛期を現出するユスティニアヌス1世が即位する。彼は、世界帝国ローマの復活を実現するため、国力の向上と積極的な領土拡張に努めた。

 国内政策としては、財務長官ヨハネスを中心に課税強化による財政力の向上に努め、司法長官トリボニアヌスに有名な「ローマ法大全」を編集させ法体系を整理し、司法制度を整備することで統治権を強化した。こうしたユスティニアヌスの一連の国内政策は、対外戦争のための国力の伸張を意図したものである。

 しかし、地中海世界随一の大国ビザンチン帝国とはいえ、北のゲルマン諸国家、南のササン朝ペルシアに対して、同時に戦争を行い得る程の国力は有していなかった。特に、ササン朝はユスティニアヌスと同じ時代、名君ホスロー1世の下で全盛期を迎えている。帝国は苦戦を強いられ、休戦協定を結ぶのがやっとであった。

 二正面作戦を避け、多額の貢納によりササン朝との屈辱的和平を買ったユスティニアヌスは、帝国の矛先を失われた故郷の奪回に向けた。